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9年 [東北太平洋沿岸]


吹雪だったなあ。寒かった。
この時間は UPSのバッテリーがいよいよ切れ始め、事務所のあちこちから「ピー ピー ピー」っていう音が鳴り響いてたっけ。
発電機もない。情報を得るすべがない。津波の話は次の日の朝に知ったくらい。

その代わり、星空は恐ろしいほどきれいだった。
小さなストーブを焚いて暖を取り、家族4人で早々に布団に入った。

翌日、津波で3台の車を失ったことを知らされる。同僚を迎えに一路、宮城へ。
高速道路は通行止め。300kmの道のりは一般道のみ。点灯している信号は2カ所だけ。
避難所へ。津波の爪痕を見る。水もまだある。学校の1階は浸水、避難所は2階から上。
薄暗い教室の、入口すぐにうずくまってるおばあさん。恐ろしさに引きつるような顔は、忘れられない。

月がきれい。

同僚は3人とも無事。通れそうな道を探しながら会社へ。翌朝、無事に到着。

しばらく宮城に通う。流された車を探して。瓦礫の中。半狂乱の若い女性が「うちの主人、知りませんか?」と泣き叫びながら抱きついてくる。物陰から人間の一部とおぼしきものが見える。近くの人たちに知らせる。近所の倉庫から、大量のカップラーメン、清涼飲料が流れている。道の真ん中に魚がいる。

お客様のところへ。津波が引かずにまだ入れない。

仲間が仕事中に津波に飲まれた事を知る。一人は配達中。一人は「家族が心配だから見てくる」といって海沿いの自宅へ。先の一人は行方不明。他の一人は家族と一緒に発見される。
仙台空港の近所にいた知人。自分の場所まで来るかと身構えていた津波が、1m手前で止まる。

ビデオ屋さんから大量に流出したDVDを拾い集める人。流れついたカバンを物色する人。
無人のコンビニに入っては何かを持って出る人。

分かってる。分かってる。仕方ないんだ。みんなが聖人君子じゃない。

瓦礫の中を、誰かの名をつぶやきながら。泣きながら。
電線の上に引っかかった毛布を、ただ見上げる人。
流れ出た車に「当社の所有です」と、社名入りの紙をガムテープで貼るT社の社員。

記憶というのは残酷なもので、忘れようにも忘れられない。

フジカラーのネガ袋。拾い上げてみるとネガシートにトリミングの指示がしてある。
色指定も。他の箇所にも、細かい指示。
空想の中でポジに変換してみた。いい写真だった。撮った人は?撮られた人は?

春のセンバツが中止になったという速報が携帯を揺らしている。同調圧力といってもいい。
無観客の相撲中継にも、なんとなく慣れた。

今日は風がすごい。朝から大荒れ。
でも、橋を通ったときに低く虹が架かった。すべては真実なんだなと。
痛みは忘れない。


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